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東国の古代史

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2019-10-15 (Tue)  23:50

古墳石室の構造変化(3/5) - 石室の構造と挙動解析 -

前稿からの続きです。

本稿では、関西大学工学部土木工学科教授である西形達明西田一彦両氏が行った古墳石室の挙動解析の結果を紹介しながら、石室構造がその強度にどのような影響を及ぼすのかを見ていきます。両氏の実験には多くの観点を含んでいるが、ここに示すのは代表的なものだけを抽出しています。
  
(5)石室挙動解析結果

①アーチ構造の必要性
両氏は側壁形状が石室の安定性に及ぼす影響を確かめるために側壁部の石をアーチ状に積んだ場合と垂直に積んだ場合を比較しています。モデル1がアーチ状に積んだ場合の解析結果です。
 
 
古墳石室の構造変化7
モデル1
 

石室内部の埋め戻し土の除去を起点にして、石積みは石室内部に向かって僅かに圧縮変形し、容積が小さくなっているのが分かると思います(a→b→c)。しかし、その変化は大きいものではなく、安定した状態を維持しています。モデル図の中にStepという単位がありますが、個別要素法では各要素の運動方程式を時間経過で積分して挙動を計算しますが、その時間変数です。前稿で記載したように差分法により各構成粒子を動作させますが、粒子の移動~接触確認~作用力計算のループを15万回繰り返しているという意味です。
Stepについては以降のモデルも同様。

【補足】 
「差分法で粒子を動かす」という表現は理解しにくいと思いますので補足します。具体的に云うと、各構成粒子に発生しうる加速度を予め定数値として与え、現在の速度+加速度分の速度をステップ毎に計算しながら、粒子の新しい位置を計算し直す事を意味しています。例えば墳丘を覆う粒子は全て重力加速度を持つし、側壁横の粒子は石室に向いた水平方向の加速度を持ちます。各粒子は自由に運動できる仮想体とするのが前提なので、実体の挙動を数学的に疑似動作させることが出来ます。数式で表すほうが分かりやすいのですが、説明が必要で記事が長くなるので割愛します。
古墳石室の構造変化25


 
古墳石室の構造変化8
モデル2
 

 モデル2は石室側壁材を垂直に積んだ場合の解析結果です。この解析では側壁部の石積みが直線状になっているため、石室高さの中央部から下半分にかけて水平変異が大きくなっている。盛土の土圧を受けて石室内部に向けて座屈が起きています。座屈とは構造物に加わる荷重がある限界を超えた時に、急に変形を起こしてたわみを生ずる事を指します。つまり側壁は崩壊するということです。
 
以上の結果から石室内部側の壁面は曲線上のアーチ状にすることにより、古墳盛り土からの水平土圧を受け止める事が可能な事が分かります。僅かなアーチでも垂直の場合とは全く異なる結果が得られました。構造力学的に言えば、形状をアーチ状にする事で作用する土圧は壁面石積み間の垂直圧縮力に変換されます。言い換えると、石積み間のせん断抵抗をより大きくする事が可能になっている。せん断とは材料が土圧応力によって引き裂かれる事を言います。従って、せん断抵抗とは引き裂きに対する抗力、言い換えると石材と石材の間の摩擦力を指します。圧力によって石材間の摩擦抵抗が大きくなっているので、周囲の土圧に対する抵抗力があると理解すればよいでしょう。
 
 
②天井石に求められる重量
次は天井石の重量の影響を調べるために、天井石の大きさをモデル1の半分にした解析モデル3です。
 
 
古墳石室の構造変化9
モデル3
 

この解析ではモデル1の天井石の大きさを半分にしている点を除けばモデル1と同様条件となっている。にもかかわらず、石室壁部の石積みは大きく内側に押し出され、明らかに石室は崩壊状態に至る。これは天井石が石室の安定性に及ぼす影響が非常に大きい事を示している。墳丘の土砂よりも天井石の比重は大きいので、垂直方向の圧力が低下した結果だと推定できます。
古墳の場合はエスキモーの氷雪ブロックの家のように天井まで側壁と同じ構造材料では持ち堪えられない。大きな違いは側壁・天井外側からの土圧の有無です。実験者は重量の大きい天井石が石室上部に設置される事で上部盛土の荷重を受け持っている。さらに、側壁のせん断抵抗を増加させて石積みの安定性を向上させていると述べています。これは、側壁のアーチ形態の効果と同じく、天井石が側壁石材間の摩擦力を高める効果を持つ事を示している。

私の個人的なアイデアですが、天井石の重量低下分を墳丘の土砂量を増やして解決する方法もあると考えました。大型の天井石は運搬負担が大きいので築造工数に大きく影響します。しかし、よく考えると、天井石の面積を変えずに軽量化することは、墳丘の垂直土圧で折れやすくなる事が想定されます。天井石の折損強度と重量効果を考えれば、大型の天井石はやはり外せない要素かも知れません。今まで古墳石室の天井石の大きさは埋葬者の権威の象徴というイメージを持っていましたが、力学的にも意味を持っていたという事です。
  

③石室埋め戻しの必要性
モデル4の解析は古墳の施工手順を検討するために石室内の埋め戻しは行うが古墳の盛土を積み上げるまえに石室に充填した土を除去したと仮定した時の解析モデルです。
 
 
古墳石室の構造変化10
モデル4
 
 
石室内に土がない状態で盛土が石室の高さまで施工されると、容易に石室が不安定な状態に至ることを示している。つまり、墳丘盛土の積み上げ時は石室に大きな土圧が掛り、石室内側から支えて置かないと崩壊してしまうという事です。これはモデル3の場合と似ていますが、盛り土のない状況では天井石があっても石積みに掛る垂直荷重が不足している事を示していると思います。この不安定な状況を回避するためには、石室内に古墳盛土の積み上げが終わるまで、土砂を充填しておく必要があります。
高橋逸夫氏は1937年の論文で、古墳築造過程では、石室積み上げ~墳丘の盛上げと並行して、石室は土砂で充填していく必要があると論述しています。この主張は、この机上実験によっても実証されたと云えるでしょう。

以上の実験は、解析モデルなので天井石の移動過程における石室への偏った荷重変化などは考慮されていません。個別要素法は特定の条件のもと、静的な状態からの挙動解析を行います。従って天井石を乗せるという人為的な条件変化をシミュレーションする事はできません。つまり、天井石などは人力で引っ張るわけですから、石室に均等に荷重が掛かるのは真上にセットされたタイミング以降です。石を移動している最中は端から徐々に荷重がかかっていき、荷重バランスが崩れた過程を経ます。強力な石室内側からの支えがないと天井石の移動過程で石室は確実に崩壊するでしょう。当時はクレーンなどの重機は無いですから持ち上げたまま、静かに最終位置にセットすることは不可能だったと思います。最後は私見による推定が入りましたが、盛り土を積み上げる以前の段階でも、巨大な天井石移動に伴う荷重不均衡状態を支えるためには、埋め戻しの対応は必須となると判断します。
  
 
 
次回に続く
 
参考・引用資料
■土木史研究 第22号
 「古墳石室構造の歴史的変遷についての技術的考察」 西形達明、西田一彦
■石舞台古墳の巨石運搬ならびに其の築造法            高橋逸夫
■テキスト資材「個別要素法の基礎 -Distinct Element Method- 」



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訃報 * by 上州の人
今回の台風19号により、藤岡市の国史跡、「十二天塚北古墳」の墳丘の一部が崩落したとのことです。

Re: 訃報 * by 形名
上州の人さん、こんにちは。情報ありがとうございます。

> 今回の台風19号により、藤岡市の国史跡、「十二天塚北古墳」の墳丘の一部が崩落したとのことです。

十二天塚は猿田川河岸段丘の縁にありますから、地盤が弱いのかも知れないですね。
最近は樹木もみな伐採して裸状態ですからね。

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訃報

今回の台風19号により、藤岡市の国史跡、「十二天塚北古墳」の墳丘の一部が崩落したとのことです。
2019-10-18-23:53 * 上州の人 [ 編集 * 投稿 ]

形名 Re: 訃報

上州の人さん、こんにちは。情報ありがとうございます。

> 今回の台風19号により、藤岡市の国史跡、「十二天塚北古墳」の墳丘の一部が崩落したとのことです。

十二天塚は猿田川河岸段丘の縁にありますから、地盤が弱いのかも知れないですね。
最近は樹木もみな伐採して裸状態ですからね。
2019-10-19-10:52 * 形名 [ 編集 * 投稿 ]