FC2ブログ

東国の古代史

Top Page › 古代日本史 › 考古遺物の年代測定(3/3)「ウィグル・マッチング法」
2021-04-05 (Mon)  06:30

考古遺物の年代測定(3/3)「ウィグル・マッチング法」

前稿からの続き

ウィグル・マッチング法”放射性炭素14”年代測定の応用手法です。対象試料から、時代差の分かっている部分を複数切り出し年代測定を行い、その変化パターンと標準スケール化された炭素14変化パターンを比較して年代照合する方法です。原理は単純な”放射性炭素14”年代測定法とは全く異なるので、独立した測定方法として記載しています。

実態的には、木材の年代を測定する場合に使われるケースが多い。木材には年輪があり、時代差が1年毎に明確に分かるので、確実な試料が得られるからです。しかし、木材ならば、前述の年輪年代法があるではないかと思われる方がいると思います。しかし、年輪年代法は樹皮を含む100年分の資料が必要です。また、標準スケールと照合しても明確な一致点を特定できないケースもある。従って、試料条件が良ければ、先ずは年輪年代法で測定を試み、結果を得られなかった場合にウィグル・マッチング法を行うケースが多いようです。
この測定法では、試料木材から、連続する10年分の年輪を60~70g以上、全部で40~50年分以上採取できれば可能です。つまり、1試料からの測定点数は5点以上あればよい。大気中の炭素14濃度は時代毎に不規則に変化しているため、ウィグル・マッチングでは標準炭素14変化パターンと比較照合して年代測定を行う。標準パターンは、予め年代の分かっている木材試料を測定して長い年月分が作成されています。そして、遺跡出土の木材を測定した変化パターンと照合する。一致する部分をあれば、出土木材の枯死した年代と判定します。これは年輪年代法における標準年輪変化パ ターンの代わりに、炭素14濃度の標準変化パターンを用いたと考えればよい。ウィグル・マッチング法年輪年代法と類似した測定技術なのです。

対象試料は木材の場合、年輪が計測できる生材と炭化材が対象となります。樹皮直下の最外年輪が確認される木材か、それに近い部位の辺材のほうが測定精度は上がります。この点は年輪年代法より条件が緩い。また、測定する年輪数が多いほど、精度の高い年代が得られるが、標準炭素14変化パターンによっては少ない年輪数でも絞り込める場合もあると言います。
試料の前処理工程は”放射性炭素14”年代測定法と同じですが、計測箇所が多いので工程処理には時間を要します。重要な点ですが、”放射性炭素14”年代測定と同じく、約5点の試料測定値は標準較正曲線を使って較正を行います。その後に、試料の変動パターンと標準炭素14変化パターンとの照合を行うが、これは年代較正解析ソフトウェアというコンピュータソフトで処理するそうです。

測定の精度は、標準スケールである標準炭素14変化パターンの正確さで決まります。10年単位で作成された標準スケールであれば、±5年の精度で年代決定を行うことが可能です。”放射性炭素14”年代測定法から見ると飛躍的に精度が高くなります。火山の噴火時期の計測には、この方法が採用されている。火山災害で枯死、埋没する樹木が多いためです。また、もし1年間隔の標準スケールがあれば、誤差ゼロで測定が可能となります。しかし、何百年、何千年の標準スケールを1年間隔で作るには膨大なコストがかかり、現実的ではないようです。現在は国際標準の炭素14変化パターンが使われる事が多いが、日本固有の炭素14変化パターンもあります。使用するスケールが異なれば結果にも影響が出るので、標準スケールの選別は非常に重要なポイントになります。
※炭素14標準変化パターン(較正曲線)の代表例として、10年単位の[Stuiver1982;Stuiver andBecker1986]が使用されるケースが多い。

最後に、ウィグル・マッチング法で実際に測定した事例を記載します。以下の測定は、群馬県渋川市の寺院建設現場の地下から発見された倒木の試料です。倒木は榛名山二ッ岳の噴火で埋没したことは明確なので、噴火年代を測定することを目的に行っています。因みに計測プロジェクトリーダは群馬大学教育学部の早川由紀夫教授です。

考古遺物の年代測定9
↑地下から出土した炭化していない木材

考古遺物の年代測定7
              印  カエデ属の生材(BK926A)
              印  ブナ属の生材(BK926B)
              印  ハンノキの生材(BK928D)
※グラフ中の縦棒は標準偏差範囲.較正曲線は IntCal04を使用

出土した倒木3本は榛名山の噴火によって同時に埋没したと考えられる。従って、測定は3種の樹木各々の年輪から5年輪単位で試料を切り出し、”放射性炭素14”年代測定を行っている。一番右端のプロットが木材の最外年輪部に相当する。ハンノキは最外年輪部が抽出できなかったらしいので右端のデータがないのだと思います。得られた測定値を使ってウィグル・マッチングしてAD489-498(AD495/+3/-6)を得ている。誤差は標準偏差です。5年輪ずつ纏めての試料を切り出しているので、噴火を経験した最外年輪は、2年を加えてAD491-500(AD 497/+3/-6)になる。引用した図面に正規分布標準偏差1σ/2σの記述があります。従って、噴火年代は68%の確率で西暦491年から500年の間に入り、95%の確率で西暦487年から506年の間に入るという事だと思います。



【参考引用】
■株式会社パレオ・ラボ ホームページ
■榛名山で古墳時代に起こった渋川噴火の理学的年代決定  早川由紀夫 他

関連記事

Comment







管理者にだけ表示を許可