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2024-03-18 (Mon)  16:40

古事記神話 「神の世界は下請け制?」

「はじめに天地創造があった、万能の神は全てを造りたもうた。光、水、大地を造り、そしてそこに住まうもの達を造ろう・・・と思ったけれど面倒になって、生き物を造るのは“下請け”に任せることにした。その下請けである『天地創造社デザイナーたちが生き物の案を出し、エンジニアが実現可能か検証し、クライアントである神が採用の可否を決定する。」
これは『天地創造デザイン部』という『月刊モーニングtwo』(講談社)で連載していた漫画の紹介文です。万能の神から依頼を受けて生き物をデザインする天地創造社の社員たちの悪戦苦闘を描いたファンタジーコメディです。

この漫画は西洋の神話をモチーフにしています。でも日本神話とも通ずる部分はあるような気がします。実際にストーリーを見てみたが、なるほどと思わせる部分もあります。日本神話を題材にしている訳ではないので天地の概念が一致しなかったり、神の機能は異なるが、アイデアとしては面白いと思います。

古代の歴史書である日本書紀古事記には各々に神話編を含む。しかし、神話編の比率には大きな違いがあります。日本書紀では6%程度であるが、古事記では約35%を占めます。比率の大きさは、各々における神話の重要性を示しているとも言えます。これは前者が正史の体裁であり、後者は天皇家の固有歴史書である事にも関係している。日本書紀は国外の読者も意識している文書です。従って、各国固有の文化性がある神話よりも政治的な記事(国家の正統性)を重要視しているのかも知れません。また、神話の記載でも日本書紀古事記では細部において内容に違いがあります。古事記では書紀に比べて一貫した物語性があります。書紀では「一書に曰く」の客観視的な記載があって、やや繋がりの分かりにくい話となっている。以降は主に古事記神話に沿って話をします。

古事記の上位神
↑古事記で最初に出現する天津神12代17神 クリック拡大

物語の最初のほうで出現する計12代の天津神は、誰かが生み出した訳ではなく、ただ唐突に出現します。独神とは性別の無い神、双神は男女ペアの神です。
漫画では、まず神は万物を創造したとするが、古事記で最初に現れるアメノミナカヌシ天之御中主神)は万物の創造神ではなく、天地を支配する神でもない。天地は創造されたものではなく、天も地も最初から存在したというのが古事記の世界観です。天地初発という言葉で言い表されている。ただ、天地はあるものの、混沌としていて、大地は硬く固まってはおらず、天も薄暗く雲に覆われている。アメノミナカヌシという神名は、天地を作ったのではなく、天地の中心を高天原にして領有した事を示す。ただ、至高の神とされる具体的記述はない。古事記では最初の11代までの天津神は出現するものの、それぞれがどんな使命を帯びているのか明確ではない。また何をしたのかも記述されていない、読者はその神名からある程度推測できるだけです。

11代までの天津神たちの事績はとても少ない。12代目に登場するイザナギ・イザナミに対し「海に漂っている脂のような国土を固めよ」と命令し、矛(ほこ)を授ける部分です。具体的に誰が命令したとも記載されておらず、天津神の神々としているのみ。そして、具体的な事績の記述は無いまま、隠れてしまいます。古事記では上位の偉大な神ほど影が薄い傾向にあります。「下請け神」に命令だけして後は知らんぷりといえる。そして二度と姿を現さない。例外はタカミムスヒカミムスヒです。両者は何度か登場しますが、いずれも下位神への指令神として登場します。自身で何かを成し遂げることは無く、重大な時だけ現れて命令だけする。事績とは言えないが、後述するアマテラス系譜では、タカミムスヒの娘はニニギノミコトの母となる。本来、性別の無い神に娘がいるという不思議な設定です。もっとも神は物や、肉体の一部からも化成しますから普通のことかも。

小林永濯画
↑小林永濯『天之瓊矛を以て滄海を探るの図』(1880年代)

天津神で中で具体的な仕事をして役目を果たすのは、12代目のイザナギ・イザナミだけです。海に漂っていた脂のような国土を固めるべく、天浮橋から天沼矛(あまのぬほこ)で海をかき回し、出来上がったオノコロ島で結婚する。国産み・神産みの仕事において、国土を形づくったり、多数の子神を儲けます。その中には淡路島、本州、四国、九州等の島々と、海・水・山など森羅万象の神が含まれます。
神産みは、男女神が結婚して産み出すパターンと、肉体の部位や身につけた物から化成するパターンが主流です。しかし、神の行為する場所からも産まれるパターンが少しあります。このあたりは理由を論考しても、あまり意味が無いような気がします。数が多いだけに思い付きで創作しているように感じられる。生成した神には、親神から使命が与えられて役目を下請けさせていきます。

古事記神産み
イザナギ・イザナミの神産みの図 クリック拡大

↑上図はイザナギイザナミの夫婦が生んだ神々です。イザナミは最後にヒノカグツチを産んだ際にやけどを負い、やがて死んでしまう。イザナギイザナミを死に至らしめたヒノカグツチを切り殺す。上図にはヒノカグツチの死体から生まれた神も含んでいます。


黄泉の国から帰ったイザナギの禊で生まれた神
↑イザナミの禊(みそぎ)から生まれ神の系譜 クリック拡大

↑上図は、黄泉の国から帰ったイザナギの禊で生まれた神々です。アマテラスツクヨミスサノオは三貴神と呼ばれ、天津神に属します。特にアマテラス指令神としても、自らも行動する神としても描かれている。本来ならアマテラスタカミムスヒに次ぐ位置づけの神です。しかし、おそらくは創作された時期が遅い神のため、化成する段階も低いのだと思われます。高い位置に挿入してしまうと既存の話の多くに影響が出てしまい、修正が大変だからです。
スサノオについては、皇統神話の創作段階で出雲神話との神話統合があったために、アマテラスと兄弟とされているが、本来は出雲の土着神であったと考えている。詳細は神社新羅起源説批判(2/2)「神社新羅起源説の評価」を参照してください。日本神話・逸話では兄弟の年長者は悲惨な運命にあるケースが多い。この兄弟ではむしろ逆転している。大方の天津神が隠れたのち、至高の指令神としての役目を負うアマテラスは長姉にせざるを得なかったのであろう。
ツクヨミに関しては古事記では殆ど登場せず、貴神ながら影の薄い神です。おそらくアマテラススサノオという対照的な性格の神に対して、中性的で静かな存在をバランスのために配置したのでしょう。神話の中では役目を持たない神と言っても差し支えない。

アマテラスとスサノオの誓約
↑アマテラスとスサノオの誓約で生まれた神

↑さらに、アマテラススサノオの誓約(うけひ)の段でも神産みがある。イザナミに追放されたスサノオが高天原のアマテラスに挨拶に行く。スサノオの攻撃を警戒したアマテラススサノオに攻撃の意図が有るか無しかを二人で占いで決めるという話。互いに相手が持つ物実を噛み砕いて吹き出し、神を生成する。物実とは、本質を象徴・匹敵・代行させる物体を指す。難解表現だが、この場合は神が宿る(内包する)神宝と捉えて問題ないと思います。二人の占い勝負は、生み出す神の内容で競ったと思わるが、古事記では勝利根拠が明確でない逸話となっている。女神を生んだスサノオが勝ったと宣言しているが、数では男神を生んだアマテラスが勝っている。でも何故かスサノオの勝利を受け入れています。なお日本書紀では勝利の条件を明確に決めてから誓約を行っている。


神話の形成と目的1
↑アマテラスの系譜から生まれる初代天皇

アマテラスの系譜からは天皇家の祖、天孫である人間が生まれる。以上の系譜図で示す通り、イザナギイザナミが生み出す神は非常に多く、次々に派生します。しかし、古事記は天孫以外の人間や、その他の生き物の生成に関しては一切記述していません。西洋には創世記という動物創造の話があるが、日本神話においては無い。
スサノオの子孫である国津神のオオクニヌシはワニサメによって傷ついたウサギを保護するが、ワニサメやウサギがどうして生まれたのか記載していない。天地が最初からあったように、地上世界の人間も動物も最初からいたのでしょうか?そういえば、イザナギ・イザナミが作った国津神たちは静的なものばかりで、動物を司る神はいない。古事記神話の表す天地は、あるがままの自然であり、本質的な創生という概念は無いのかも知れない。
一方の日本書紀天地開闢(かいびゃく)は渾沌とした世界が先ずあり、やがて陰陽に分離して天地となる。書紀の方が古事記よりも天地の造形は明らかにあいまいであった表現です。でも続く神々の登場に関しては書紀もほぼ同様です。天地創造デザイン部が担う動物の設計は日本神話の中では必要とされないようです。

古事記が描きたかった事は、国津神に対する天津神の優位性であったと思います。天地創造や生き物の創生などはどうでもよかったのではないか。国津神とは、皇統とは別の氏族の神を表わす。イザナギ・イザナミが生み出した国津神に対して天津神が命令する場面を再三描くことで、その優位性を強調したかったと思われる。天孫降臨神話では、天孫である人間天皇にも国津神を制する力を与え、地上世界を治める正統性を印象付けるための仕掛けを施している。こうしてみると、西洋の神話は全能の神の偉大さを語る逸話であるが、日本神話は人民を統制するための神話であると感じます。神が次々に神を生み、仕事を下請けさせていくという概念も、西洋神話には無い特徴と言える。まさに日本は多神教文化の中にある。



【参考・引用】
■『古事記口語訳完全版  文藝春秋  三浦祐之著
『日本書紀全現代語訳  講談社学術文庫 宇治谷孟著
■天地創造デザイン部ホームページ 「アニメ紹介文」引用
■Amazon Prime Video 「天地創造デザイン部」配信動画
日本神話.comホームページ 「天津神分類表」引用
■ウィキペディア 小林永濯『天之瓊矛を以て滄海を探るの図』/「古事記神産み系譜図面」引用
■ふるさとコミュニケーションサイトふるコミュ宮崎 「日向神話系譜図」引用


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