FC2ブログ

東国の古代史

Top Page › サイエンス › 分子生命学の進歩は希望の光?
2010-12-05 (Sun)  19:05

分子生命学の進歩は希望の光?

この世界には、ある状態を一定に保とうとする作用が働くことが実に多い。これを平衡作用と呼びます。なぜ、定常状態を保とうとするのかは、ケースによってさまざまであろう。しかし、そこには必ず理由があります。

人間の生体の中にもこの平衡作用は備わっている。
例えば、糖尿病などの指標となる血糖値の維持は、
①膵臓からのインスリン分泌
②肝臓、脂肪細胞からの分泌物質
③筋肉などでのブドウ糖の取り込みと消費

など、それぞれの機能が密接に関わっている。
どれかがうまく機能しなくなると血糖値はコントロールできない。食べすぎや運動不足が続くと内臓脂肪がたまり、脂肪が肥大化していく。特に、内臓脂肪が増えすぎる内臓脂肪型肥満が、メタボや糖尿病に悪いと考えられているのは脂肪細胞からアディポサイトカインという物質が分泌されているからです。脂肪細胞から分泌されるアディポサイトカインの影響で、膵β細胞からのインスリンの分泌と末梢組織でのインスリン感受性がともに悪化していく。これが高血糖を特徴とする2型糖尿病を引き起こす原因であることが知られている。
 
ただし、実はアディポサイトカインとは脂肪細胞から分泌される生理活性物質の総称です。アディポサイトカインの中にも悪玉と善玉がいて、アディポネクチンと呼ばれている物質が善玉物質であるようです。動脈硬化を防ぐ物質として近年の研究で注目されている。アディポサイトカインの多くは肥満にともない脂肪細胞からの分泌が増えるが、アディポネクチンは逆に内臓脂肪が増えるほど、その分泌が低下していくのです。このように脂肪細胞の中で生成される物質に相反する作用の物質が含まれるというのが不思議です。
 
2型糖尿病というのは、膵臓から分泌されるインスリンの量が少ないのも原因なのですが、実は分泌されていても、うまく働かない事が大きな問題要素なのです。これは、インスリン抵抗性と呼ばれていますが、インスリンの作用を受ける細胞の感受性
が悪くなり、血液中のインスリン濃度に見合った作用を得られず高血糖になるのです。アディポネクチンが低下すると、細胞組織でのインスリン感受性が悪化する。インスリン感受性が低いということは、糖が血液中から細胞内に取り込まれにくいということです。
 
 
 

 
 
 
ここで、前掲の新聞記事に触れます。「京都大学の研究チームが、高血糖を引き起こし、2型糖尿病の発症に関わる蛋白質TBP2をつきとめた」 という。つまり、インスリンの感受性と分泌の悪化の原因となる蛋白質を突き止めたということ。前述したように、脂肪細胞から分泌される生理活性物質のなかには悪玉がいる。でも、その物質がどんな構造を持つ物質なのかは分かっていなかったのです。
 
京都大学ウイルス研究所の増谷弘准教授(分子生命学)らの研究チームは、蛋白質の一種の「チオレドキシン結合蛋白-2」(TBP-2)が体内の血糖値を調整するインスリンの分泌を妨げ、インスリン抵抗性にも関わることを実験でつきとめた。
研究チームは、TBP-2がインスリン分泌にも影響を及ぼすと考え、TBP-2をもたないマウスとTBP-2をもつマウスを使い実験している。マウスにブドウ糖を投与して肥満にし、インスリンの増加量を比較した。 その結果、TBP-2をもたないマウスでは、脂肪細胞から生理活性物質が多く分泌されているにもかかわらず、インスリン抵抗性が通常のマウスとほぼ同じレベルであった。また、高血糖に対するインスリン分泌量も改善しており、糖尿病を発症しなかった。
 
つまり、TBP-2はインスリンの感受性を低下させるだけでなく、分泌制御にも影響していることが証明された訳です。逆にいえば、TBP-2の働きを抑えることで、肥満であっても糖尿病を発症させない可能性を示していると云えます。これは今後の新薬開発において重要な情報に成り得る。
 チオレドキシンTBP-2はあらゆる生物に存在する、生命活動において重大な働きをする蛋白質で、酸化ストレスを引き起こす活性酸素を消去したり妨げる作用があるそうです。また新聞にも記載されてるように本来は食べ物が少なくとも一定期間は活動するために血糖値を維持するための機能なのかも知れません。そう考えれば、人の細胞の中で相反する作用物質が作られる意味も理解できます。これも平衡作用のためのメカニズムと捉えてもよいでしょう。悪玉と云われていますが決して意味もなく存在してる訳ではない。
 
人の体のこうしたメカニズムは、過去において食料を得られずに飢餓状態が続いた状況への適応進化なのでしょう。肥満自体も余力があるときにエネルギーを節約して貯め込む反応ですから食料難の環境への適応というわけです。または、急激に食糧事情が改善された今、体がまだ新しい環境に適応できないでいる状況なのかも知れません。
しかし、飢餓に備えたこの機能を人間は持っていたほうが良いのかも知れない。研究してる学者さんには水をさすかも知れないが、近い将来、役に立つ時がくるでしょう。きっと。
 
 
 
 
【参照・引用】
■京都大学 大学院生命科学研究科ホームページ
Nature Communications ホームページ
■日本医療情報研究所ホームページ
■読売新聞「学び-サイエンス」(12月5日記事)
 



にほんブログ村 科学ブログへ
にほんブログ村
にほんブログ村 科学ブログ 科学情報へ
にほんブログ村
関連記事
スポンサーサイト



Comment







管理者にだけ表示を許可